夏休みにメルボルンに行った際、携えていった本がある。
『メルボルン案内 たとえば、こんな歩き方』という小川奈緒さんの本だ。
まだ見ぬオーストラリア・メルボルンの地に、この本で憧れを持ち、行った暁にはこのお店とこのお店に行きたい…!と眺めていた。
(本の中で紹介されていたギリシャ料理屋さんは、とても美味しく、初日の疲れを癒してくれた。
店内にはこの本が飾られており、同じ時間帯にこのお店を訪れていた日本人のご家族も、同じ本を持っていらした。)
そんな、小川さんのエッセイ集。
普段の暮らしも、憧れるところから、意外なことまで盛りだくさん。
最も印象的だったのは、『あっちもそっちもなく生きる』というエッセイ。
ちょっと長いですが、引用します。
…「わたしは『あっち側の人』になりたかった」と語ったのが印象的でした。
『すこやかなほうへ 今とこれからの暮らし方』小川奈緒
「あっち側の人」というのは、「たとえば、ライブ会場なら客席ではなく、ステージに立っている人。映画を観に行けば、その映画をつくった人」と説明してくれました。それは、人前に出たい、有名になりたいという野望ではなく、彼女の定義では「自分でなにかをつくり、自分のことも他人のことも楽しませられる人」を指すそうです。
これは、小川さんがインタビューでお会いした方から聞いたお話。
この感覚、ものすごくよく分かる。
私は本を読むことも本屋さんも好きだし、お祭りも大好き。
でも、できるならば、読む側だけじゃなくて作る側か届ける側、お祭りなら運営する側になりたいのだ。
この気持ちは、前からあったけれど、ますます高じてきたのは、装丁家・矢萩多聞さんの『本とこラジオ』の影響が多分にある。
『本とこラジオ』は「本をめぐって西へ東へ〜」という多聞さんの温かな声から始まる、本にまつわるラジオだ。
YoutubeやPodcastでも配信されている。本好きな皆さま、ぜひ聴いてみてください!
このラジオは、毎回本にまつわるゲストを招いて(あるいは事前に収録して)、2時間ほどに及ぶトークが流れる。
ゲストは、本を書く方はもちろんのこと、並ぶ名前には出版社、本屋、画家などの他、編集者、図案家、校正者、まだまだ書ききれない…。
本が私たちの手に届くまでに関わる、いろんな方のトークを存分に聴ける、とっても贅沢なラジオだ。
前の職場に通うことがしんどかった時期、毎朝このラジオをちょこちょこと聞くことが、私の心のチャージの時間でもあった。
このラジオ、多聞さんを始め、合いの手役のデザイナー・岩永聡子さんも、ゲストとして登場する方も、すっごく魅力的なのである。
皆さんが、今されているお仕事への想い、面白がり方、今現在について思うこと、これからのこと。
本を作ったこともなければ、本屋さんのバイトすらしたことのない私だけれど、この人たちの仲間に入りたい、そう思わされた。
まさに「あっち側の人になりたい」である。
でも、小川さんはこんな風に綴られる。
エッセイやインタビューといったノンフィクションの文章を書く仕事に、あっち側もそっち側もこっち側もなく、わたしの文章を求めてくれる、おもしろそうな仕事ならばなんでもやってみたい。
『すこやかなほうへ 今とこれからの暮らし方』小川奈緒
「書く」以外の活動もはじめたし、あっちとこっちだけじゃない、いくつかの島をひょいひょいと移動しながら、やりたいことはなんでもやって、生きていきたいと思っています。
あっち側の人になりたい、とガチガチに考えていた私には、いい意味で、肩透かしのような文章だった。
こんな風に軽やかに生きられたら、どんなに素敵だろう。
でも、あっちとこっちは、誰かが明確に線を引いたわけじゃない。超えちゃいけないわけでもない。
きっと、線を引いているのは自分。
あっちとこっちは、どこかで繋がっているし、その道筋だって小さく無数にあるのだろうと思う。
こうして文章を綴っていることも、あっち側への一歩かもしれない。
自分が喜び、他人も喜ばせることができたなら。
なんでもやってみて、いつかひょいひょい飛んできた小島を、おぉ〜結構飛んだなぁ、と眺めてみたい。

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